さんべ縄文の森ミュージアム(三瓶小豆原埋没林公園)

島根県大田市にある縄文時代の森。日本遺産「石見の火山が伝える悠久の歴史」構成文化財

イベント

月イチガク⑧「地図がオモシロイ ~地理屋と地質屋が地図を読む~」

1116日の月イチガクは「地図がオモシロイ~地理屋と地質屋を読む~」と題して、島根地理学会副会長で大田高校校長の阿部志朗さんをお迎えしてお話をうかがいました。

 はじめに、戦国期から江戸時代の石見の地図(絵図)を阿部さんが紹介されました。石見で最古の絵図は宮城県図書館所蔵で伊達家分家の脇谷亘理家に伝わってきた戦国末の「石見国図」です。2015年頃に研究者によって紹介されたもので、2019年春の三瓶自然館春の企画展「石見銀山」で実物が展示されました。石見銀山が大きく描かれているほか、都茂、久喜など石見の銀山が描かれていることから、石見銀山の研究で注目されたものです。

 ほか、元和の国絵図などが石見に伝わり、絵図の制作段階で分割して作られたものも伝わっていることなど紹介されました。

 そこから対談形式で進みました。

 最近の大田の地図に関する話題として、1930年代の陸軍測地部(現国土地理院)作成の5万分の1「大森」があります。昨年、この地図に軽便鉄道の軌道敷が記載されていることを阿部さんが見いだし、これは鬼村鉱山(大田市大屋町)と松代鉱山(大田市久利町)から静間駅まで続いていたトロッコ軌道を現したものです。現在、阿部さんと中村は両鉱山の歴史的意義の解明と関連する遺構の保存活用に向けた取り組みを行っており、この地図は貴重な資料です。なお、両鉱山の歴史は大屋町に今月オープンした交流施設「きずな」で若干の資料とともに展示されています。

 続いて話題としたのは、1950年代に作成された「大田観光案内図」です。手書きの地図をB2サイズに印刷したもので、市内の様々な商店、企業の広告と地図が掲載されています。阿部さんはGISを使ってこの地図を現在の地形図に重ねて見ることができるようにしており、当時の建物が現在どの位置にあたるかを知ることができます。当時を知る人にとっては、懐かしさもある地図です。

 伊能忠敬らが作成した伊能図からも大田を眺めました。伊能忠敬は大田地域に2回訪れており、弟子らだけでも1回訪れています。その詳細な日記も残っており、彼らがどのような経路で歩いたかも知ることができます。伊能小図には大田町から大森町までの経路がかなり詳細に記されており、大森町では天体観測を行ったこともわかります。伊能忠敬が地図の制作に取りかかったきっかけは、天体観測から地球の大きさを明らかにする目的があったと言われています。地図には天体観測を行った地点に星記号が記されているのです。

 伊能図を収蔵したソフトウエア(30万円以上!)には、現在の地図と重ねる機能があり、海岸線の比較も行いました。伊能図はある程度省略して書かれているとはいえ、岩石海岸の部分では現在の地図にほぼ一致します。ところが、砂浜では大きく違っている箇所があり、五十猛町の浜は現在より数十メートル沖合に海岸線が描かれているなど、地形変化の歴史に関わる情報を含んでいます。

 最後に、おそらく初公開となる大田市の詳細なレーザー測量成果による赤色立体図の一部を紹介しました。レーザー測量は25cmメッシュで市域のほぼ全域を対象に行っており、樹木の上部と地面をそれぞれ表示することが可能です。このデータから作成された赤色立体図では、地形に関する詳細な情報を得ることができます。

 一定の範囲ごとに書き出した赤色立体図を紹介し、その詳細さに参加者から驚きの声が上がります。三瓶山では登山道をはっきり識別でき、現在は使われていない道もわかります。古い道は他の地点でも見えている可能性があり、赤色立体図によって経路がはっきりしていない古代の道の位置が明らかになるかも知れません。放棄された山道がわかるレベルのため、地表の高低差もはっきりわかります。大田の市街地では、平野に沖積段丘が存在しており、その地形面に森山用水という江戸時代前半に作られた用水路が通っている様子がよくわかります。市街地の広がり方など土地利用の歴史と地形の関係に関する情報もこの地図から得られそうです。古墳の高まりもわかり、いくつか見える高まりには未知の古墳も含まれているようです。城跡などは現地で見るよりもはっきりと形がわかります。温泉津町福光付近の赤色立体図を見ると、福光石を採った切羽の跡がよくわかります。福光には8ヶ所以上の石切場があったと言われており、現在の石切場付近だけでも5ヶ所以上の切羽が認められ、海岸に近いエリアにもいくつもの切羽があり、福光地区全体に石切場があったことがよくわかる地図です。そのほかにも、見る人の目的によって様々な情報をこの地図から得ることができそうです。

カテゴリー 教室
日時
会場 さんべ縄文の森ミュージアム
定員 20名(webでの参加は自由です)
料金 入館料