さんべ縄文の森ミュージアム(三瓶小豆原埋没林公園)

島根県大田市にある三瓶小豆原埋没林公園

イベント

月イチガク「地底の森に狩人登場!?」開催しました

 

 宮城県仙台市の富沢遺跡では、約2万年前の森林と人々の生活跡が発見され、地底の森ミュージアム(仙台市富沢遺跡保存館)として現地での保存と展示公開が行われています。今回の月イチガクでは、同館の平塚幸人さんに富沢遺跡についてお話をうかがいました。

 

 「狩人登場」のタイトルは、昨年10月に富山県魚津市で開催された「埋もれ木サミット」の際に平塚さんが紹介されたミュージアム・シアターの話題が印象的だったことからつけたものです。

 富沢遺跡は仙台市の市街地にある広大な遺跡で、19871988年に行われた発掘調査によって約2万年前の森林と人々の暮らしが詳細に解明されています。その成果を紹介する地底の森ミュージアムの常設展示内容を実感しやすくするための取り組みとして、劇団員が旧石器人に扮して当時の暮らしのイメージを演じ、来場者と対話するという取り組みを行っています。これが「ミュージアム・シアター狩人登場!!」です。

 資料に基づいて演じていますが、服装などわからないことも多く、できるだけ史実に近付けるように相談することが研究へのフィードバックにもなっているということでした。

 

 それでは、2万年前の富沢の風景はどのようなものだったのでしょうか。

 この頃は最終氷期中で最も寒かった時期にあたります。富沢遺跡ではこれまでの発掘調査から次のことが明らかになっています。

 一帯は傾斜の緩い平坦な地形で、湿地が広がっていました。陸地部分には針葉樹が生え、樹種は、北海道北部から樺太あたりの現植生に近く、アカエゾマツに近縁のトミザワトウヒ(絶滅種)、カラマツの仲間であるグイマツ、その他にチョウセンゴヨウなどが生えていました。

 そのなかで人がたき火をした跡が見つかり、石器を作ったり動物を解体したりしていたことが推定されています。使われた石器の顕微鏡観察から、ウサギ程度の小型の動物を解体したと推定されているそうで、そこまで解析できることに驚きをおぼえます。

 動物の痕跡としてシカのフンが複数の地点で見つかっていることも特徴です。堆積物とケイ藻化石から想定される水陸の境とシカのフンの分布、水生昆虫と陸生昆虫の化石の分布がほぼ重なるということで、高精度で2万年前の風景、環境が解析されていることがわかります。

 このような古環境と古景観の解析に基づいて描かれた復元画の紹介もありました。発掘調査で新しい情報が蓄積されると新しいバージョンが同じ作者によって描かれ、これまで4バージョンあるそうです。いずれも東側から西側を見る方向で描かれて、樹種も調査結果に沿った精密なものです。

 

 2万年前の風景を詳細に復元できたことは、古環境を示す証拠が良好な状態で残っていたことが要因のひとつです。当時の地表にあったものが良好に残した作用がどのようなものだったかは注目したい部分です。

 三瓶の場合は火山噴火というイレギュラーな地質現象によって急速な埋没が生じましたが、富沢ではそれほど劇的な現象を示す堆積物はありません。旧地表を覆う堆積物は砂より細かいシルト、粘土で、付近にある金洗沢と二ツ沢が供給源と推定されています。ただし、埋没のメカニズムの解明はもう少し検討の余地があるということでした。

 証拠が残った理由として、寒冷なため有機物の分解が遅いことも関係あるのかも知れません。その可能性を支持するように、東北地方では最終氷期中の埋没林が多く発見されています。

 

 今回、富沢遺跡について詳しいお話をうかがい、古環境復元が持つ可能性をあらためて感じました。現在の環境を知り、未来を予測する上での情報源は、過去の事象です。埋没林は一般的には地味な存在ですが、大きな意味と可能性を秘めていることを、埋没林を展示する富沢、魚津、三瓶の3施設で発信することの大切さを感じた月イチガクでした。

カテゴリー 教室
日時
会場 さんべ縄文の森ミュージアム
定員 会場参加:20名/オンライン参加:80名
料金 大人300円・小中高生100円(入館料)/オンライン参加無料