<実施済アーカイブ>月イチガク⑫ なんだ? このアナ ~温泉津海岸のナゾ~
2026年3月14日(土)の月イチガクは、温泉津海岸でのフィールドワークでした。
今回の目的地は、海岸にあるふたつの穴。温泉津の町からみると北側に位置するふたつの岬の先端付近のそれぞれに、自然の力が開けた丸い穴と人が開けた四角い穴があり、それを訪ねました。
先に訪れたのは丸い穴。温泉津町日祖地区の岬の先端は、千畳敷、あるいは殿島と呼ばれる広い海食台になっていて、そこに直径2m、深さ1.5m以深に達する大きな甌穴があります。この甌穴は、広大な海食台にひとつだけ際だって大きいことが特徴です。穴の周囲はわずかな高まりになっていて、遠くから見ると目玉のようであることから命名した名前は「一つ目小僧」。命名者は今回の案内人です。
温泉津運動公園の駐車場から約1.5kmを歩いて千畳敷に出ると、そこが海面よりかなり高いことに気づきます。海食台は波の浸食作用でできる地形で、平らな面は海面とほぼ同じ高さで形成されます。ところが、千畳敷は海面から約5m高いのです。高い海食台は温泉津海岸に共通してみられ、もしかしたら過去何千年間の間に海岸が大きく隆起する出来事があったのかも知れません。
その高く広い海食台の中央あたりに一つ目小僧はあります。内側は丸くえぐれており、底には丸みを帯びた石がいくつもあります。大時化の時には波が千畳敷を駆け上がり、中の石を動かして甌穴の形成が今も続いているのでしょう。この場所の岩石は金属棒でこすれば削れる程度に軟らかい凝灰岩のため、凹みの中で石が動けば凹みの壁が比較的容易に削れて穴が広がっていくと考えられます。
でも、岩が削れやすいのなら、大きな甌穴がたくさんあっても良さそうです。ごく小さな甌穴はいくつもありますが、一つ目小僧だけがひときわ大きいのです。よく見ると、一つ目小僧の部分は岩の質が少し違うようです。
ここの凝灰岩は、海底火山の噴火で堆積した火山灰が海底で泥流的に流れて堆積したもので、質が違う火山灰の塊を取り込んでいます。一つ目小僧の部分は、質が違う火山灰(凝灰岩)の塊です。この部分は浸食されやすいらしく、周囲と違ってでこぼこです。このでこぼこが甌穴ができるきっかけになったのでしょう。
そして、千畳敷に何本もの直線的な亀裂(節理)があり、大きな亀裂が一つ目小僧の部分で交差しています。亀裂の交点ゆえに岩がもろく、そのことも大きな甌穴の形成につながったのでしょう。
千畳敷の周囲は他にも奇妙な形の岩があり、ひとつずつ謎解きしていると日が暮れそうですので途中で切り上げて、次の目的地に向かいます。
一旦、出発点まで引き返し、四角い穴を目指します。道中の山道は平らに整備されており、かつて温泉津が石見銀山の港として、北前船の寄港地として賑わったことを物語っています。山道の途中では江戸時代後期の陶器片も落ちていました。途中、急な坂と両側が断崖になった細い道を抜けて海食台に出ると、小さなプールのような穴があり、水がたまっています。
水中を見ると、穴の底は四角い階段状の形をしている部分があり、穴の壁にはノミの跡が残っています。この穴は、石材として岩を切り出した跡なのです。穴の周囲には雨水が入らないようにするために岩に掘った溝があり、建物が建っていたことを示す柱の穴もあります。石切場に屋根をかけて、雨の日も中に水が入らないようにして石を採っていたのでしょう。
そこまでして石を採った理由は何か。それがこの穴の謎です。
温泉津一帯はあちらこちらに石切場があり、西隣の福光は石見地方最大の石材産地です。海岸の石はそれほど良質なものには見えず、一見不便な場所でわざわざ石を採らなくても良さそうに見えるのです。
おそらく、ここで石を採ったことは、温泉津が港として栄えた歴史と直結しています。北前船をはじめ、多くの船が出入りし、温泉津で荷を降ろす船もあったでしょう。船は荷を降ろすと軽くなり、喫水が浅くなるために不安定になります。その状態で波を受けると転覆するため、荷を積む必要がありますが、ちょうどいい荷物がない場合には石を積んだのです。船のバランスを取るために積む重しは「バラスト」と呼ばれ、四角い穴はバラスト用の石を採った場所と考えれば、この場所にあることが納得できます。おそらく、切り出した石を小舟に積んで温泉津の港に運び、大きな船に積んだのでしょう。
石はバラストではありますが、商品でもありどこかの港で降ろして石材として使われたはずです。廻船が寄港する港のどこかに、この穴から切り出した石が残っていると思われます。探し当ててみたいものの、それは少々難しそうです。
参加者一同で、わいわいと話をしながら現地を観察して、出発点まで戻った時には終了予定の17時を大きく過ぎていました。大いに盛り上がったフィールドワークでした。
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