漆がつなぐ唯一無二のもの 島根の漆職人 長屋さん(2)
―漆器は凛としていて、最後は土に還るという「はかない美しさ」を感じますね。
古代の人は、漆の効果に気づいて実用的に使っていたのではないか思います。
でも、現代において漆を手がけている人たちは「漆に惚れている」といった感覚ではないでしょうか。
しかも、漆は「生もの」なので気候や天候に左右されて、同じものを同じように作り続けるのがとても難しいです。
それだけに完成したときの美しさ、ツンデレ感にやられちゃいます(笑)。
かぶれたり熱が出たりもするのですが、それを乗り越えて作品ができたときは全部報われる感じがあります。愛おしいですね。
―もともと、工芸品や創作に関心があったのですか?
家は時計店でした。父などが時計を修理しているのを幼い頃から見て育ち、手仕事を身近に感じる環境がありました。
高校卒業後は金沢美術工芸大学に進みました。
以前から木に興味があり、木工芸を専攻しようと思っていたのですが、漆があまりに美しくて「最高だ!」となって(笑)。
―大学卒業後は企業に勤めながら、活動作家をされていたと伺いました。
大学院を卒業した当時は漆で就職がほぼないという状態でしたので、フリーターでアルバイトをしながら作家として目が出るのを待つか、とりあえず一般企業に就職するかのどちらかでした。
私は就職をして、お給料をいただきながら作家活動も続けることにしました。
大学生の頃は、教授に評価されることが目標でしたが、企業に入れば一般のお客さまを意識します。
どれだけ自分でいいと思っていても、売れないと続けていけないですから。
日々の暮らしの中で長く使ってもらえることがいかに大切かを学びました。
―マーケティングを学ばれたのですね。目指すはどのような作品ですか?
漆製品は、豪華絢爛な印象があり「特別な日に使う器」という感覚が根強いと思いますが、日々の暮らしの中に普通にあることを前提に、ほっこりするとか、華やかになるとか、会話が弾むとか、豊かな気持ちになるとか、漆の力を使って何ができるのかを考えるようになりました。
結果、ただ美しいものを作るのではなく、生活の中で人々の助けになったり、癒したりするものを目指すようになりましたね。
大学卒業後、もしも一人で作家を続けていたら、独りよがりの作品になっていっていたかもしれません。
―「八雲塗(やくもぬり)」の制作にも関わっていらっしゃると伺いました
私は松江市の中心地で育ち、その一角に八雲塗りで知られる「八雲塗やま本」さんがありました。
金沢にいた頃もインスタグラムでつながっていて、松江に帰ってからお手伝いをさせていただくようになりました。
最盛期には八雲塗やま本だけでも20人くらいの職人さんいらっしゃったようですが、職人の高齢化や生活様式の変化などで伝統文化の担い手が減っている状況です。
私がこれまで培ってきた経験や技術を生かして、再び八雲塗を盛り上げるとともに、次の世代に繋いでいく架け橋になりたいです。
―漆の可能性は無限にあるのですね。
漆でモノを接着したり加工したり、昔の人が普通にやっていたことですが、価値観が多様化する現代の生活の中で、改めてその価値が見出されていくのではないかと思っています。
出雲に自分の工房を構えたとき、ここ、出西から漆業界や日本の伝統工芸を盛り上げていきたいと思いました。
実力ある職人さんや作家さんが島根をひとつの拠点として広く活動ができるようになっていったらいいな、いつか貴重な国産うるしを増やす取り組みもしたいなと夢を描いています。
これからも漆や島根の魅力、日本の伝統工芸の美しさ、「大切に使い続けるサステナブルな豊かさ」を、暮らしに寄り添うポップな作品と共に、世界に発信していきたいです。
✿長屋さんイチ推し!今日からできる楽しいプチサステナブル✿
日本の食卓は色んな器が並んで楽しいですよね。器も食べる量も「みんな違ってみんないい」。こだわりの器で食べる食事は、1人でも何人でも心が華やぎ美味しいです。
商品を購入する際に、モノの素材から使い終わった後、「循環」まで考えると面白いですね。私の器も何百年と使っていただき、最後はボロボロになって土に還ればこれ以上嬉しいことはないです。
【インタビュアー感想】
扱いが大変と思い込んでいた漆器。
壊れた陶器を漆でつなぐ「金継ぎ」は、私も気になっていて、いつかできたらいいなと思っていました。
伝統を受け継ぐ漆製品の魅力、傷んだり壊れたりしても修復できることなど、長屋さんは漆について丁寧に話してくれました。聞いて目からうろこが落ちる思いがしたのです。
作品を目にすると、自分だけの椀や箸が欲しくなり、欠けた器も修復して大切にしたい気持ちがムクムクと湧いてきました。
モノを大切にすることは、自分や身近な人を大切にすることにつながっている…。そんな気づきを与えてくれた長屋さんでした。(2023年7月取材)
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しまねFutur2030#9
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