山の恵「一頭でも埋めない」資源が巡る命をicasプロジェクト!合同会社弐百円 森脇さん

2023.05.26

 

 

 

「松江に今まで無かった。を、おもしろく!」をモットーに、田畑を荒らす野生動物による農作物被害の対策や、捕獲したイノシシの利活用など、新しい地域の資源と価値の循環づくりに取り組む「合同会社弐百円」の森脇香奈江(もりわき かなえ)さんに、活動や取り組みのきっかけについて伺いました。

 

 

 

―森脇さんこんにちは!「合同会社弐百円」は、どのようなことをされているのか教えてください。

 

 

こんにちは!弐百円(にひゃくえん)は、松江市の地域おこし協力隊第一期生だった佐藤さんと私が任期満了前に立ち上げた会社です。
 

今は主に、松江市からの委託された「鳥獣被害対策コーディネーター」として、野生動物から田畑を守る方法を地域の農家さんにお伝えしたり、捕獲したイノシシの肉を使った加工食品やメニューを開発して、イノシシ肉の利活用を推進しています。

 

 

 

その一つとして、ここ、お食事処「安分亭(あんぶんてい)」では、八雲町の旬の野菜と松江市内で捕獲されたイノシシのお肉を使った美味しい料理を提供しています。

 

 

―それで先ほどからいい匂いがしていたんですね!「安分亭」について詳しく聞かせてください。

 



いい匂いがしますか?ありがとうございます。(笑)
 

いまは、ちょうど明日の仕込みをしているところで、安分亭の定番メニューになりつつある「猪そぼろ丼」の具を調理しています。

 

 

 


この場所には元々、地元の農家さんが長年営んでおられたお店があったんです。
 

そのお店が閉店することになったときに、色々な方からご相談をいただき、引き継がせていただくことになりました。

 

 



前から勤めていたスタッフの方たちにもご協力をいただき、昨年(2022年)の5月にリニューアルオープンをすることができました。

 

 



安分亭は、ジビエ料理を提供するだけのお店ではなく、地域の野菜やはちみつなどの産物、文化の発信、農作物の被害対策や、イノシシ肉の価値を体験できる場所として展開していきたいと思っています。

 

 

―弐百円さんがオンラインで開催するイノシシ肉を使った料理教室も好評ですよね
 

 

「松江ジビエールクッキング」という取り組みです。
 

イノシシ肉と言えば、ぼたん鍋や猪汁、焼いて食べるくらいしかイメージがないと思うのですが、食材としての可能性を広げるために、イタリアンやフレンチなどのシェフにメニューを考えていただき、皆さんにレシピと作り方をお伝えするオンライン料理教室を開催しています。

 

 


 

毎回、料理がおいしいのはもちろんですが、それだけではなく、教室の最後に野生動物による松江市の農作物被害の実態や、捕獲したイノシシを地域の資源としてうまく活用するためのコツをお話しさせていただいています。

 

 

―なるほど!それで、エプロンからハンティングベストに着替えて、イノシシや農作物の被害についてお話しされていたんですね。

 



はい。私は、狩猟免許を取得して猟友会にも所属しています。
 

松江市は県内で都会のイメージがあり、よく「えっ松江でもイノシシが出るの?」って言われますが、山間部では田畑が荒らされていますし、最近は、松江城下や商店街でもイノシシが目撃されていて、町中でも野生動物の存在を感じることが増えていると思います。

 

 



年によっても変わりますが、有害鳥獣(ゆうがいちょうじゅう)として捕獲されるイノシシは毎年1,000頭前後。
 

猟期である冬の脂乗りの良いイノシシは需要があり食肉として流通していますが、夏のイノシシは脂が少なく、価値がないとされ、食肉として流通するのは全体の1割程度なんです。
 

捕獲したイノシシを活用したくても、食肉に加工するには専用の施設が必要ですし、山から降ろすのも大変な労力がいります。
 

猟師さんが一番イノシシの命をリスペクトされているのですが、埋めて処理をせざるを得ないのが現状です。

 

松江市の鳥獣被害の実態と対策(令和4年度 総合計画実施計画より)

・有害鳥獣捕獲

イノシシ1,224頭、ニホンジカ30頭、アナグマ156

 

 

―知らないことばかりでびっくりです…イノシシ肉も、もっと流通していると思っていました。

 


 

松江ジビエールクッキングでは、これまでにイタリアン、フレンチ、スペイン、中華、アジア料理や沖縄料理それぞれのシェフにイノシシ肉を使った新しいメニューを作っていただきました。
 

埋められるはずだったイノシシたちを、まるで世界へ旅させることができたようで嬉しかったですね。
 

今後もさらにイノシシ肉の可能性を広げるべく、シェフや色んな方とコラボしていければと思いますし、そうすることで埋設処理されていたイノシシをたちを「一頭でも埋めない」で、利活用の推進に取り組んでいければと思います。

 

 

―松江市に委託されている鳥獣被害対策(ちょうじゅうひがいたいさく)コーディネーター」とは、どのような取り組みでしょうか。

 



駆除したイノシシを活用するだけでなく、農作物の被害を防ぐためには、そもそも集落や農地に野生動物を寄せつけないなど総合的な対策が必要です。

 

 

 


野生動物の生態や能力を知り、集落や農地周辺の環境整備、防護柵の取り扱い方、設置方法などを学ぶ勉強会を地域で実施し、農家さんに対策方法をお伝えています。

 

 

 


いままでにお話した一連の活動について、4つの観点から「命をicas(イカス)プロジェクト」と名付け、イノシシを地域の資源として活用し、価値の循環が生まれるような活動しています。
 

・捕獲された野生動物の肉・骨・皮などを余すことなく「活かす」こと。 
 

・環境整備や啓発活動により、農作物を守り、豊かな里山を「生かす」こと。
 

・捕獲した野生動物を苦しまないように「逝かす」こと。
 

そして、「松江に今まで無かった。を、おもしろく!」をモットーに、「何々のため」ではなく、弐百円が心底楽しいと思う魅力的な「イカす」活動をすることです。

 

icas(イカス)プロジェクトとは?

・活かす/埋められていく命を地域資源として活かす

・生かす/自然環境=山・森・里を生かす

・逝かす/捕獲した鳥獣を苦しまないように逝かす

・イカす/魅力的で秀逸なイカした活動を行う

 

 

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