町の宝物を受け継ぎ、未来に羽ばたく子どもたちを応援する Cafe and Gallery鐘や 八嶋さん

2024.03.27

 

 

 

 

飯南町野萱地区(のがやく)三日市に、約100年もの間、多くの町民や旅人に愛された旅館ありました。
 

惜しまれつつも暖簾を下ろした宿の建物を引き継いだのは、その町に生まれ育った八嶋敏江(やしま としえ)さん。
 

飯南町の新鮮な食材を使ったカフェや、子どもたちを応援する「中高生食堂」、地域と芸術を繋ぐギャラリーなど、文化の灯をともし続ける「鐘や」の取り組みを伺いました。

 

 

―ステキなカフェ&ギャラリーですね。元はどのような建物だったのですか?

 

 


元々ここは、「塩屋(しおや)」という旅館でした。
100年を超す歴史を持ち、飯南町のメインストリートのシンボル的な存在です。
 

旅の宿としてだけではなく、地域の人や文化が交わる場所で、選挙があれば出陣式で住民が集ったり、結婚式の会場になったり、町の人々のコミュニティを支えていた大切な場所でした。

 

 

その旧「塩屋」を改装して「鐘や(かねや)」が誕生したのですね。

 

 


2022年5月に「CafeGallery 鐘や」としてオープンしました。
 

旅館の1階部分をカフェと美術品を展示するギャラリーにしています。

 

 


改修にあたっては、建物全体に刻まれてきた歴史や伝統的な職人さんの技、精神のようなものを受け継ぎながら再生することに心を配りました。

 

 

 


建物の重厚感に合うよう、しつらえにも本物を使おうということで、カフェの椅子はイギリスやフランスのアンティーク家具で揃え、照明や食器も考え抜いて選びました。

 

 

 


カフェでは、飯南町の旬のお野菜や山菜、新鮮な魚、国内産の肉、減農薬でつくられたエコ米など、こだわりの食材を使用した安全で美味しい食事をお出ししています。
 

また、週3日、子どもたちに低価格で温かい食事を提供する「中高生食堂」を開いています。

 

 

―オープンのきっかけは?

 

 


あるとき、暖簾を下ろした「塩屋」を管理する方が退居されることになり、売り物件になりました。
 

子どもの頃、毎日その前を通って「今日はどんな人が泊まっているんだろう」と思いながら通学していた私には、とてもショックなことでした。
 

そんな時に、人づてに建物が売りに出されることを知り、友人から買ってはどうかと勧められたんです。
実は、ある時から「子ども食堂」を運営することがいつも頭の中にあったのです。これを機にチャレンジしてみてはどうかと言われました。
 

当時の私は町の看護師、ケアマネージャーを経て施設の看護師をしていましたから、まさかという気持ちでした。

 

 


 


「塩屋」という地元の財産を守りたい!でも、建物は大きいし、経験のないことへのチャレンジは難しい…本当にどうしようか迷っていたのです。
 

その時、そんな私を見て「手伝うから一緒にやりましょう」と、友人が言ってくれて。
 

息子や娘もやってみたら!と背中を押してくれましたので、思い切って挑戦することにしました。

 

 

―人生の大転機ですね。運営にはどのようなイメージを持っていたのですか?

 


 


描いたのは、〝育ち盛りの中高生たちのお腹を満たすカフェ″〝地域の財産である伝統的建造物を守ること″〝本物の芸術に触れてもらうギャラリー″、この3つでした。
 

改装費など、オープンに必要な資金を得るための補助金申請の企画書を携えて飯南町や島根県の商工会議所連合会へプレゼンに行くたびに、「3つも欲張りすぎです!」と言われました(笑)
 

でも、どれ一つ取っても自分には外せないことだったのです。

 

 

―運営が決まったときのお気持ちは?

 

 


何かわからない、大きなパワーで計画に組み込まれた感じでした。それが、どんどん進んでいって。
 

補助金をいただけることが決定したときは、応援してくれた友人や家族と喜びました。
 

でも、それから毎日後悔したんですよ!もう、150回以上も(笑)
「私にできるのかな」、「なんて大それたことしたんだ」って。人生の大転換でしたから。
 

そこから1年間、いろいろな補助金やクラウドファンディングで資金を集め、建物を改修し準備をしてオープンにこぎつけました。

 

 

「中高生食堂」をやりたいと思ったきっかけはなんですか?

 

 

 


町の運営する学習支援館があるのですが、私は同じ建物で人形劇のサークル活動をしていました。
 

子どもたちが、塾の合間に廊下でカップラーメンや菓子パンを食べているのを見ていて、いつも何か応援したい、簡単なおにぎりやお味噌汁でいいから温かいものを作ってあげられたらと考えていました。
 

その時は衛生管理や仕事の関係で実現できませんでしたが、ずっと心の片隅に引っかかっていて、いつかきっとやりたいと思っていました。

 

 

―どのように運営されているのですか?

 

 


「中高生食堂」は、週3回、カフェの通常営業が終わった後に半額程度の価格で温かい食事を提供しています。
 

メニューはチキンカレー、牛丼、天津飯など手軽に食べられるものです。

 


 


オープンして1年目は、78人の受験生が毎日、通っていました。
 

最近は「今日のメニューは〇〇です」と、朝、グループLINEでメッセージを送り予約してもらうようにしています。
 

多くて30人弱くらい、平均15人くらいが安定して来てくれるようになって、よかったです(笑)。

 

 

―中高生食堂をしてよかったと感じることは?

 

 


食べ終わると、「ありがとうございました、ごちそうさまでした」って食器を運んでくれます。みんな、いい子です。
 

また、「ここがあったから大学に合格しました」と、お母さんと挨拶に来てくれた受験生が3人もいて、嬉しかったですね。
県外に出ても、帰省したときにはお店に寄ってくれたらと思います。
 

お腹を満たすだけでなく、お喋りを楽しんで心をリセットしたり、気持ちが元気になったりする〝拠り所″にもなれたらいいですね。

 

 

―中高生食堂に使う野菜など、地元のみなさんの協力があるとお聞きしました

 

 


このカフェでは、普段から少し値段は高くなっても安心できる飯南町の減農薬の野菜や山菜、道の駅などに売れている生産者の顔が見える食材を使っています。
 

このシフォンケーキも飯南町の栗と、小豆を炊いたものを添えています。

 

 


また、近所の方が、「これ、子どもたちに食べさせてね」と作った野菜を持ってきてくださったりもします。子どもを応援する思いが地域に広がっているのを感じます。
 

カフェのお客さまにも野菜が美味しいと言ってもらっていて、とてもありがたいですね。
 

地産地消も、もっと応援できるよう食材の生かし方を勉強し、料理の腕を上げたいです。

 

 

 

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