自由に歩く「牛がつくる風景」と循環 ダムの見える牧場 大石さん
美しい山並みが続く中国山地。奥出雲町と雲南市にまたがる「尾原ダム」のすぐそばに、「放牧酪農(ほうぼくらくのう)」を取り入れた牧場があります。
その名も「ダムの見える牧場」。
そこには、乳牛たち50頭あまりが山手に広がる牧場で自由に草を食み、のびのびと過ごしています。
牛舎から里山へ自由に出入りできる環境で生活をしている乳牛たちが、私たちの暮らしや循環にどのように関わっているのか、経営者の大石亘太さんにお話しをうかがいました。
―ダムに山の緑が生えるステキな景色ですね。
ここで「放牧酪農」を実践しているそうですが、牛たちはどのように過ごしているのですか?
放牧酪農と言ってもいろいろな考え方があって、牛が食べる餌も放牧地以外のものは認めないような完全放牧もあれば、ちょっとゆるめな放牧もあります。
この牧場はゆるめな方で、牛を繋がず、舎の囲いの戸を常に開けておいて、牛たちが好きなときに草原や山に行けるようにしています。
今、ここにはホルスタインとジャージー、それから木次乳業さんから預かって飼育しているブラウンスイスという品種の牛がいます。
それから、犬や猫、雑草を食べてくれるヤギも。
基本的に、ブラウンスイスは完全放牧で牛舎にはいません。とても体が丈夫なので山の中で寝起きして、冬でも身を寄せ合って越冬します。
その他の牛たちは、冬は日照時間や草が少なくなるので牛舎を中心に過ごしています。
―牛たちは、自由に動き回ることができるのですね。
家畜や動物の福祉の指標として、「アニマルウェルフェア畜産認証」という制度があります。
行動、飲食、不快、病気、恐怖・抑圧の5つの基準があり、この牧場では「通常の行動様式を発現する自由」を最も尊重しています。
思うままに歩き回ることでストレスが減りますし、歩いて足腰を強くすることは牛の健康面でとても大切です。
牛は約 700 キロもある体重を 4 本脚で支えています。足は牛の命なのです。
―ウクライナへの侵攻が始まってから、輸入飼料の高騰が深刻になっていると聞きます。
一般的に日本の牛が食べる飼料のほとんどは、海外で大量生産するトウモロコシや牧草などの「輸入飼料」です。
世界有数の生産国ウクライナへの軍事侵攻が始まってから飼料の価格が高騰し、全国の酪農家が苦しんでいる状態です。
うちでは、夏のシーズンの半分が放牧地の草で、冬になると100%が牛舎の餌になります。
通年では約20%を草原や山の草でまかない、輸入飼料の使用を軽減していますが、餌代高騰の影響はかなり受けていますね。
―地域でつくられる飼料もあるとうかがいました。
輸入飼料の他に、松江や出雲の転作田で作られた「飼料稲」も使用しています。
飼育稲はお米よりも水や手間が少なく作れるので、契約農家さんの負担が少ないですし、地域産の餌は世界情勢に振り回されることなく値段が安定しているし、いろいろな面で互いの協力が可能になります。
例えば、飼料稲を作ってくれる農家さんに牛の堆肥を卸すなどの取り組みです。
牛の糞は有機物を豊富に含んでいるので土壌改良に役立ち、いい作物を作ることに繋がっています。
また、堆肥糞は一般の方も購入できるよう道の駅で販売しています。畑の野菜がよく育つようで、生産が間に合わないくらい人気です。
今後も輸入飼料をできるだけ抑えることで、コストはもちろんですが、海外で消費される土地や大量の水などの消費を抑えたり、輸入にかかるエネルギーを減らしたりできたらいいですね。
―世界とのつながりや地域での循環を感じます。
私たちが放牧酪農を応援したいと願ったときに、何ができるのでしょうか?
ここの牛乳は木次乳業に卸していて、「木次パスチャライズ牛乳」になります。
木次乳業は酪農や農業にチャレンジする若い農家を応援してくれていますし、常に高い志を抱いて新しい取り組む島根のブランドです。
このような業界や地域を盛り上げる企業、お店の取り組みを知って商品を選ぶのもいいと思います。