自由に歩く「牛がつくる風景」と循環 ダムの見える牧場 大石さん(2)
―大石さんの放牧酪農との出会いをお話いただけますか?

大学生の頃、隠岐の島の知夫里島(ちぶりじま)へ旅行しました。
そこで牛が自由気ままに過ごす風景を見て感動したのがきっかけです。
調べてみたら放牧が関わっているということが分かり、のめり込んでいきました。
卒業当時、放牧酪農は国内でも珍しく、日本の本州で行っているところはほとんどなかったのですが、雲南市の木次乳業が全国に先駆けて山地酪農を実践していることを知り、そこで2年間学ばせてもらいました。
―島根の自然を生かして行う放牧のメリットはどこにあると感じていますか?

一番に、昔ながらの里山の美しい景観を維持することができます。
大学時代は農学部で、「人口が減り荒れていく里山に牛を放したら元に戻るのか」が研究テーマでした。
現在、一部の放牧地では約4年間、草刈りをしていません。
それでも放牧しているときれいな状態に保てるので、里山が維持できることの実証と確信になりました。

理想の草原は、草があって藪があって木がある姿だと思うんですね。牛が草を食べて、短く刈られたような状態になる。
糞の周りには藪ができて、忘れた頃に伸びた藪の草を食べ、牛が食べない木は残る。それが、自然が巡る「里山の風景」だと思っています。
―未来に向けてどのような里山にしていきたいですか?

放牧をしていると、牛を見に人が集まってくれます。「牛がつくる風景」を、できれば地域の資源として活用して欲しいです。
押し付けかもしれませんが、自分が初めてみた景色で受けた感動をこの町の子どもたちにも味わってもらいたくて。

子どもたちが大きくなった時に自分の故郷では、牛が野山を歩いていたな」と思い出して、友達を連れてくるような自慢の里山にしたいです。
―地域の子どもたちの牧場見学を行っていらっしゃいますね。

「酪農教育ファーム」の認証を取得していて、地元の小学生たちや子ども会の見学を予約で受け入れています。
※「酪農教育ファーム」:一般社団法人中央酪農会議による認証。認証を受けた酪農家などが学校や教育現場などと連携して、酪農に関わる作業などを通じて食や命について学ぶ体験学習活動を行う。

見学は、牛の名前や特徴が一目でわかるカードを持って放牧地へ行くようにしています。
「ここからは牛の世界だよ」と伝えて餌やりなどもするのですが、牛の名前や特徴がわかると、子どもたちの目の輝きが変わりますよ。
―手作りのカードで楽しみながら学ぶことができそうですね。

牛にはみんな名前があります。この牛は「ヨッシー」。
群れのナンバーワンで、最強姉妹の姉です。乳量も一番多くて病気もほとんどしたことのない絶対王者。(笑)
ちなみに、ナンバーツーは妹の「キタサン」です。
―かっこいいですね。なぜ、ヨッシーなんですか?

牛には番号が付いていて、この牛は 9041 番なので、下二桁からヨッシーにしました。
一頭一頭、穏やかだったりズル賢かったり、性格も違うので面白いです。

カードの下にある数字は乳量の他に、1 日あたり牛にかかる正味のコストです。ここ数年で 1000 円くらい上がりましたね。
―見学の他に、バター作り体験もあるとうかがいました。

そちらは、奥出雲観光協会に申し込んでいただきます。

一組 3000 円で、人数は 5 人まで。瓶に入った牛乳をひたすら振って完成したら、食パンに塗って試食します。持ち帰りもできますよ。
―これから、酪農を通じてしてみたいことはありますか?

小さな牧場だからこそできることを大切にしていきたいですね。子どもたちと牛とのふれあい体験は今後も継続していきたいです。

また、この牧場のフィールドを自由に活用してもらいたいという気持ちから、島根大学の学生が竹林で行う「焼畑」の研究を応援しています。
放置された竹林に火を入れ、竹林の拡大抑制抑、土壌の改善や森林の回復、農作物の無農薬栽培などを行う研究です。
牛の放牧を通じて地域や人と繋がっていけたらいいなと考えています。
そしてゆくゆくは、ここの牧場で朝に搾ったミルクを使ったソフトクリームやお菓子を食べながら、のんびりと里山で草を食む牛たちを眺めてもらえたらと、夢を描いています。
まだちょっと時間がかかりそうなので、それまでは家で牛乳を飲んだ時に、この「牛がつくる風景」が頭に浮かんでくれたら嬉しいです。

ここ10年で少しずつ放牧酪農を志す新規就農の若者が増えています。
彼らの話を聞くと、メガファームばかりでなく、人生の豊かさの一つとして数頭の牛と長く付き合うという自分のスタイルがあるビジョンが多いよう。
何か参考になるよう、ことあるごとに自分の思いを口にして多くの人に知ってもらいたいです。
そして、放牧の価値を理解してくれる人があれば誰でもやってくれたらいいなと思っています。
牛のいる里山の景色を残していきたいと思う人が出てきてくれるよう、まずは地域に愛される牧場にしていきたいですね。
✿インタビューアーの感想✿
楽しいと思うときはいつですか?と聞くと、「牛が牛舎から外へ出ていくのを見るとき」と大石さん。また、牛舎見学に来た子どもたちの反応に手ごたえを感じたときだそうです。
牛から巡る自然や地域社会の未来に希望を感じた取材でした。
バター作り体験はぜひ参加したいですね!そしていつか「ダムの見える牧場」で草を食む牛を見ながら、大石さんの牧場のミルクで作ったソフトクリームを味わいたいです。
写真の牛たちに会いに行きたい
ダムの見える牧場の
★牛舎に入る前には、靴裏の消毒が必要です。
牛たちを守るため、許可なく牛舎への立ち入りはご遠慮ください🐄
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\ 2025年3月よりケーブルテレビで放送! /