さんべ縄文の森ミュージアム(三瓶小豆原埋没林公園)

島根県大田市にある三瓶小豆原埋没林公園

お知らせ

月イチガク「大あなご学」5月20日開催しました

2023.05.05

 520日の月イチガクは、「大あなご学」と題して、「大田の大あなご」ブランド化の仕掛け人、沖 和真さん(大田商工会議所 事務局長)にお話をうかがいました。

 近年、一気に大田市の名物に躍り出た大あなごのブランド化がなぜ始まり、どのような取り組みを行ったかについて、大変興味深いお話でした。

 大あなごの取り組みが始まったのは2018年。わずか5年前です。沖さんは以前から大田市の「一日漁」のブランド化に取り組んでおり、その漁獲の中で全国屈指の水揚量を誇るアナゴに焦点を当てることになったそうです。この一日漁とは、朝出港して夕方に帰港して水揚げする漁の形態で、漁場に恵まれた大田市の特徴で、魚の鮮度は抜群です。

 取り組み以前は、大田市で水揚げされたアナゴの大部分は県外へ出荷されており、市民にとって馴染み深いものではありませんでした。水揚量が多いことを知る人も関係者などに限られていました。

 そのアナゴをブランド化するために、東京や広島などの産地に比べて圧倒的に大きいことを押し出し、「大田の大あなご」の名称を使って展開が始まりました。他の産地のアナゴは体長3040cmが中心で、大田市で水揚げされる日本海西部のアナゴは体長5080cmです。ブランド名称を決める際、大あなごは大味なイメージにつながると懸念する意見もあったそうですが、大きさという特徴を活かすことと、小さなものより肉厚で柔らかく脂の乗りが良いことを売りにするために、「大」にこだわり、「大田」、「大あなご」と大をくり返す音の響きにもこだわったということです。

 

 

 20193月に「大アナゴまつり」というイベントを行いました。ブランド化の取り組み全般を通じて予算はわずかしかかけておらず、大アナゴまつりの周知もチラシは作らずSNSなどwebのみで行いました。このことは、市外からの参加者を呼び起こすことにつながりました。当初は定員80名としたところ、申込みの多さから100名に増やし、その4割が市外からの参加者でした。このことは、観光資源としての可能性を確信することになり、ブランド化へのキックオフになったのです。

 イベントに続いて、アナゴを使った料理のレシピコンテストを行いました。コンテストを通じて多くの人に関わってもらうことができ、調理方法の幅が広がることも期待できます。同時に、沖さんは自ら飲食店を訪問してメニューにアナゴを取り入れてもらうように依頼したそうです。断られ、幾度も足を運んだこともあったそうで、その汗をかいたことが今につながっていると思われます。メディアへの情報提供を通じて報道等での紹介もあり、大あなごの認知度は短期間で高まって行きました。

 これらの取り組みを進めてきた4年間で、アナゴの卸売価格はキロあたり500円程度から1300円以上に急伸し、メニューで扱う飲食店数は2店舗から31店舗へ増加しました。他のアナゴ産地では、あなご丼か重くらいしかメニューがないことが多いことに対して、鮮度が良い大田市では刺身を提供する店舗もあります。和食店に限らず洋食店でもアナゴを取り入れており、レシピコンテストなどで調理法の幅が広がることへの意識が生まれたことも好材料でした。その結果、市内の至る所で「大あなご」の文字を見かけるようになり、市内での流通量と消費量が飛躍的に拡大しました。

 ブランド化の取り組みが単に認知度を高めようとするものではなく、生産から流通、消費まで産業全体の底上げを図りながら、一体的な戦略をとして進めたことが成功の鍵だったと言えそうです。

 

 

 強い逆風もありました。ブランド化の取り組みが始まって間もなくコロナ禍によって世の中が大きく変化したのです。飲食と観光の落ち込みは大きく、関連する産業への影響は極めて大きなものでした。しかし、ブランド化の取り組みは逆風に耐え、産業の下支えにつながりました。市外へのアナゴの出荷量は大きく減少し、そのままでは休漁を余儀なくされる事態にもなったかも知れません。

 ところが、市民への大あなごの認知度が高まり、販売の体制が整ってきていたことで地元消費量が拡大し、外への出荷の減少分を補うことになりました。旅行に行きにくい状況で、市民の関心が市内に向けられたことには、「禍転じて福となす」という面もあったかも知れません。

 

 

 ことあるごとに話題を発信し、報道での取り上げを図ることで、市外での認知度も少しずつ高まっています。ブランド化の成功事例として漁業、商工、経済関係者などからの注目も高まっています。巨大な大あなご天丼がテレビ番組で紹介されたことをきかっけに観光客で行列ができるほどになった店舗もあります。20232月にさんべ荘で将棋の王将戦が行われた際、藤井王将が大あなご重を食べたことも話題になりました。

 ここまで至った背景には、大田の一日漁で水揚げされるアナゴの品質があります。どれだけPRしても、モノが良くなければ定着しません。そして何よりも沖さんを中心に的確なブランド展開を行ってきたことが成功の理由でしょう。この展開を支えたのは「人の縁」だと沖さんはおっしゃいます。生産者から流通、販売、観光など各種業者と行政、研究者、メディア関係者など多くの人をつなぎ、広がったことが大きな力になったのです。

 

 

 そして、大あなごのブランド化はまだ終わっていません。沖さんの視線は大田市の未来という高みを見据えている。そう感じるお話でした。