千年つなぐ秋の実り 柿壺株式会社 小松さん(2)
-どんなことがわかったんですか?
まずは、土地の成り立ちです。
この辺りの山は、大昔に海底に堆積した地層が隆起してできたといわれています。
栄養分をふんだんに含んだ肥沃な土なんですよ。
昔の人たちはこれを知っていてこの土に合う柿を選んだんでしょうね。
奥出雲のシイタケ、大社のブドウ、多伎町のイチジク、島根のブランド作物の産地を考えると、昔の人たちが土に合った作物を上手に選んでいたことが分かります。
平田の西条柿が美味しいのも、相性のいい土のおかげなんです。
適地適作なんですが、もちろん、長い間に培った技術がそれを支えています。
そんなことが少しずつわかってくると、だんだんその気になってくるんです(笑)。
-平田ならではの農業の魅力に引き付けられたんですね!
はい。その気持ちが強くなったのは、やはり〝人〟というかコミュニティーの心地よさですね。
ここでは近くに後輩がいたり、柿農家さんたちが遠慮なくものを言ってくださるし、近所との垣根がないように思います。
初心者の農業は一人では絶対に無理です。この環境があることが大きかったですね。
最初の2年間は市が指導する農業スクールに通って、研修した後の1年間は師匠について学んで、それから独立して会社を立ち上げました。
-農業の担い手不足が深刻な今、地域にとって小松さんのような存在は嬉しいですね
柿壺が管理する柿畑は、高齢化や担い手不足で手放されたものです。
どの農業もですが、平田地域の柿も生産者の減少という問題に直面しています。
「桃栗3年、柿8年」ということわざがありますが、柿の木は植えてから成木になるまで長い年月がかかります。
でも、栽培管理ができなくなった柿園は病害虫の巣窟となるため伐採しなければいけません。
柿栽培の長い歴史が途切れてしまってはいけない。
美味しい柿を作るとともに、木を守り、豊かな土壌と柿作りの歴史を千年先にも残したいです。
-収穫の季節・秋は忙しいですね。他の季節はお休みですか?
とんでもない!(笑)一年中畑にいますよ。
むしろ冬から春が大事な時期。
柿の木のバランスや勢いをつけるための剪定(せんてい)作業が重要です。
余分な枝を切って、弱った木を蘇らせるのですが、1日10数本がやっと。
畑には1300本程度の柿の木があるので、作業が終わるまで4ヶ月くらいかかります。
春につぼみが出始めると今度は摘蕾(てきらい)という、余計な実がならないように手作業でつぼみを摘みます。
そして夏は草刈りです。僕たちは除草剤を一切使いません。
農作物にとって土というのは非常に重要で、色んな虫や菌などが生きていける土壌が美味しい作物を作るんです。
生物の多様性がある土こそ柿に良い土。
夏は20日に1回は草を刈らないといけません。重労働ですが、こうしていっぱい手間をかけることで元気な果実が生まれます。
-子供を育てるようなものですね!柿の木が可愛くみえます
そうですね。一年中見ているので、人間よりもわかりやすいかも!
木の皮の状態、実のなり具合、葉の色から、うまく陽が当たっているか、水は不足していないかなど、さまざまなことが読み取れます。
僕は柿農家になった1年目に、木と会話しているような不思議な感覚を経験しました。
枝を吊って養分が行き渡るようにしたり、日当たりを調整したり、木がしてほしいことを伝えてくるんですよね。
1本1本違いますが、弱っていた木もちゃんと手をかけてやって元気になれば、それなりに返してくれます。
もともと生き物を育てるのは好きですが、とても面白いですよ。
-愛情を持って育てた柿だから、きっと販売にも強い思いがありますよね。
勿論!!でも、どうしても規定のサイズより小さかったり、小さな傷が付いてしまったりと出荷できない柿が出てしまいます。
手塩にかけた柿を捨てるのはもったいない…と悩んだ結果、皮を剥いて干し柿に加工することにしました。
糖度が高い西条柿は、干し柿の原料として最高級品!
それにまた手間と工夫(企業秘密)を加えて作るジューシーな干し柿です。
干し柿にすると約一年中をかけて生産・販売できるので、ここでは食品ロスはほとんど発生していません。
-世界で問題になっている「食品ロス」がないのは凄いです
一般的に、野菜や果物は必ずしも全てが売れるのではなく、捨てられていくものもあります。
例えば、キャベツや白菜などは、形が悪いものや虫食いがあるものなどは畑に埋めたりして肥料にします。
一方で、状態が良く十分に商品価値があっても、市場価格の変動による生産調整のために廃棄されるものもたくさんあります。
果物でも早めに収穫して市場のニーズに合わせようとすることがありますが、美味しさのピークを迎えないまま出荷されるので、本来の味を届けられずもったいない結果を招くことも。
さまざまな事情で、生産段階でたくさんの食品ロスが出てしまうのが残念。
消費者の方には見えにくい部分ですが、知ってほしい事実です。
-柿を使った新しいブランド作りにも協力されていると伺いました!
地元企業の方が、日本遺産にもなった出雲のあかね色の夕日をモチーフに、地元の食材を使ったプライベートブランド「akanequore(アカネクオレ)」を作っています。
夕日=オレンジということで、僕たちがつくった柿を使ってもらい、彩雲堂さんから「柿羊羹」が、酒持田本店さんから「柿酒」が誕生しました。
素材から島根生まれ・島根育ちの逸品として胸を張れるお土産になるはず!
-未来の「食」について、私たちにできることはありますか?
消費者のみなさんに農業の事情を知ってほしいです。
形や色が揃っている安いものから先に買っている人が多いと思いますが、農産品の価格は市場で決まります。
生産者が自ら価格を決めるシステムが確立していないんです。
それで生活できればいいのですが、小規模農家は安いものだけを作り続けて食べていくことはできません。
僕たちは、より美味しいものを育てるために多くの手をかけ、できるだけ付加価値をつけようとしています。
そうすることで徐々に市場で認められるようになれば、農業を持続でき、安心・安全な農産物を届け続けることができます。
消費者のみなさんも、生産者がどのように育て、どれだけ手間ひまかけてきたのか知って、それに見合う価格設定を理解してくださると嬉しい。早くそんな時代になって欲しいです。
-美味しい柿と一緒に、小松さんが未来に残したいと思う島根の自然はありますか?
そりゃ、もう宍道湖です!
僕の故郷も自然が豊かで、特に山の遠くの稜線がとても好きですが、宍道湖を囲む山々は低くてなだらかで、優美な姿がいいですね。
山並みを写した鏡のような湖面や、ときおり陽の光を反射して輝く湖面なんか、他ではあまり見られない特別な瞬間があります。
いろいろな場所で自然豊かな風景を見ましたが、宍道湖は特別ですね!
平田の美味しい柿や歴史と共に、千年先の人たちに愛されていて欲しいです。
【小松さんイチ推し!今日からできる楽しいプチエコ】
いつも食べている野菜がどんな風に作られているのか知ろう!!
きっと農家のかたが丹精込めて育てた、可愛い野菜です。
また、見た目やイメージに騙されないで。
例えば、日光をたっぷり浴びた西条柿は『日焼け』をしています。
一見避けてしまいがちですが、甘くて美味しい証拠です。
*小松さんとお話しした感想*
様々な問題をビジネスチャンスに変えていく小松さんの画期的な取り組みを見ていると、これから島根の農業はどんどん変わっていくのではないかと思いました。
時代の流れに沿った新しいアイディアに注目です!!
日本一美味しい柿作りを目指して
日々奮闘中!
柿壺さんの