この地域で健やかな家をつくる!コザワホーム代表 小澤さん
2050年脱炭素社会に向けた取り組みが重要視される今、家づくりの重要なキーワードになっている「パッシブ設計」。
松江市で住宅建築に携わるコザワホーム代表 小澤浩(おざわ ひろし)さんにお話を伺いました。
-小澤さんのお宅はあったかいですね!2月なのに室温が27度!
そうなんです。
パッシブ設計の家なので、冷暖房をあまり使わなくても快適に過ごせます。
外に雪が積もる日でも、子どもは肌着でゴロゴロしているんですよ。
-「パッシブ設計」とは、どんなものですか?
その家が建つ場所の環境に合わせ、心地よく健康的に暮らせるデザインをする設計手法です。
夏場の強烈な太陽の直射が入らなければ冷房を使う頻度が減りますし、逆に日差しを効果的に取り込めば日中の照明の使用や冬場の暖房が抑えられる。
自然の力を有効利用し、少ないエネルギーで効率よく暮らせるように家を造る、といったところです。
各部屋にエアコンが1台ずつある家、よくありますよね。
パッシブ設計なら効果的に冷暖房を使えるので、1フロアにエアコン1台で事足ります。
ちなみにこのフロアは、押入れの中に隠した普通の壁掛けエアコン1台だけ。
下に向かって出る温風を、床に空けた穴から出る空気で上げる仕組みですが、今は設定温度より室温が充分に高いのでほぼ稼働していません。
-なるほど!東京ならこんな家、島根ならこんな家、と地域に合わせるんですね
それもありますが、もっと細かく家が建つ土地の風通しや日差しが入る角度などをピンポイントで測定・計算し、そこから家の向きや間取り、窓の位置などを決めていきます。
1軒1軒それぞれ異なる条件に合わせるのがパッシブ設計なのです。
自然の力を利用すると言っても、涼しさや温かさが逃げてしまっては元も子もありません。温度を一定に保つため、気密性・断熱性の高い構造も大切な要素です。
-快適な温度を家の外に逃さない、不快な温度を外から家の中に入れないことが重要なんですね!
そうなんです。私たちは、「お客様は家を買うのが目的ではない」とよく言っていまして…。
家をコーヒーの器に例えてみましょう。
寒い家は穴が空いた器のようなもの。
温かくおいしいコーヒーが冷めてしまったり、こぼれてしまっては意味がありませんよね。
「温かいままのコーヒーを飲む幸せ」。それこそお客様が求めているもの、そして私たちがお客様に提供したいもの。
効果的に冷暖房が使え、いつでも快適に暮らせる豊かさを手渡したいのです。
70年代ごろまでの高度経済成長期は、「家を建てろ、建てろ!」で、性能も地域性を考えずにポコポコとプレハブのような家を建てる「量の時代」でした。
今は全く違う、豊かさを大切にしていくべき時代だと思います。
-小澤さんは、子どもの頃から家づくりに興味があったんですか?
父が左官業を営んでいたので、自然と家づくりを志すようになりました。
漠然とですが「将来は家業を継ごう」と考え、建築系の学校に進学。建築会社に勤めてから地元に戻り、父の仕事を手伝っていました。
そのうち、トイレを直して欲しい、駐車場を増やしたい、リフォームしたい、などの工事の依頼が増え、住宅全体の仕事を請け負うようになり、「コザワホーム」を設立。
2代目で、オザワ(小澤)の子供なので、社名は「コザワ」にしました!(笑)
-パッシブ設計を志すきっかけを教えてください
家づくりの仕事を始めてしばらく経った頃、室内の寒暖差によるヒートショックでたくさんの人が亡くなっていることを知りました。
浴室でのヒートショックで亡くなる人だけでも年間17,000人、交通事故で亡くなる数の約4倍といわれています。
人間にとって憩いの場所であり、身を守る場所である住まいが、命を落とす原因を作っている…これは許しがたいと思い、健康に暮らせる家を探究するようになりました。
-家づくりをするにあたって、例えば松江市はどんな環境ですか?
島根県は冬は氷点下になる日もあるのに、夏は全国でもトップクラスの暑さ。
熱中症で搬送される人の数は全国でも鳥取に次いで2番目に多いといいます。
雨が多く湿度が高いのも特徴です。
年間約150日…実に1年の半分は雨!
冬場の日照時間は1日で2時間弱で東北地方並み。
寒暖差が大きく、ジメジメして日が当たらず、カビが生えやすい環境で家づくりをするには過酷だと言えます。
北側の外壁が黒ずんでいる家を見かけませんか?
あれは付着した汚れだけではなく、カビも生えているケースが多いんです。
アルミサッシに黒いものがついていたら、それもカビ!主な原因は結露。
私は結露を〝家の病気〟だと思ってます。
-イヤですね!!家が傷みそうだし、体にもよくない
そうなんです!
サッシが結露していたら壁の中なども結露し、カビが生えやすい環境になっていると考えてください。
カビは家の寿命を縮めます。せっかく建てるなら、子どもの代まで長く使いたいですよね…。
湿度が高いとカビだけでなくダニも増えやすくなり、アレルギーを引き起こすこともありますし、夏は熱中症のリスクも高くなる。
人間にとって心地よく体に優しい湿度は40〜60%。この数値を保っていくことが大切です。
そんな環境で、いい家を建てるにはパッシブ設計が必要なんですね。
島根は寒冷な地域で、暖房を使う期間が半年ぐらいあります。
肌寒くなる11月ごろから、5月の連休前までコタツが出ているご家庭は多いですよね。
夏の涼しさも大切ですが、エネルギーに関するコストを抑え、健康的に暮らし、さらに家の寿命を伸ばすなら、冬の温度と湿度に着目した対策が必要です。
断熱性を高めれば結露ができにくく、カビが生えにくくなります。また、室内の寒暖差を解消することでヒートショックを予防できる。
家の中がどこも快適な温度だと、過ごし方の自由度が上がるというメリットもあります。
親も子どもも部屋にこもることなく、その日の気分で場所を選び、おしゃべりや勉強、読書、遊びなどを楽しむ。
家の中に居場所が多いと心にゆとりができ、豊かな時間が過ごせると思います。