今が最後のチャンス。持続可能な地域と「自分らしい豊かさ」を見直す 島根県立大学 豊田先生(2)
−「資源」というとエネルギーに関するものばかり想像していたけど、観光も資源なんですね!
もともと島根は資源が豊かな地域。
土地、食べ物、建材や衣類の原料、人が助け合うつながりといった、生きていくのに必要な全てがあります。
自立できるポテンシャルがある。
今の暮らしを見つめ直すために必要な、受け継がれてきた知恵も残っています。
「歴史なんか必要ない」という考えの人もいますが、適切な暮らし方や社会のシステムは土地ごとに違います。
だからこそ、歴史や文化的資産は大切にしなければいけない。それが島根には残っているんですよね。
−うーん自立…「島根の農業は大規模生産地に勝てない」という話も聞きます。
そうですね…特に島根県西部は山が多くて農業に適した平地が少ないので、広大な土地を一気に重機で耕すような北海道などに比べたら生産量は少ないです。
でも栽培される品目は多いんですよ。
そのまま売るのではなく、六次産業化などで付加価値を出していくことが大切です。
減農薬や有機栽培でブランド力の高い作物を作っている農家や、地域の施設を使って地ビールを作っている人もいます!
−エネルギーの面ではどうですか?これからは風力発電やバイオマス発電など再生可能エネルギーが重要視されそうですよね。
島根県内で使う電力を全て賄うところにはたどり着けていません。でも、挑戦している地域もあるんですよ。
津和野町では地元の人が立ち上げた会社がバイオマス発電の計画を進めています。
津和野はもともと林業が盛んな地域。発電のための資源となる木がそこらじゅうにあります。
−バイオマスって間伐材を使いますよね?発電のために切っていたら木がなくなりませんか?
むしろ間伐しないといけない場所ばかり!
間伐すべき山林の10%ぐらいしか手が回っていないと言われています。
主伐(伐採期に達した樹木を切ること)をしないといけない木もたくさん。
植物はずっと二酸化炭素を吸っているイメージがありますが、木材となる杉などは、大きくなると炭素を吸収する能力が下がります。
30〜50年で切って新しい木を植えて循環させるほうが温室効果ガスの削減にも有効です。
−ちゃんと循環できれば、地球温暖化の歯止めにもなるんですね。地元で経済が回って、雇用も生まれそう!
そうなんです。
実は、バイオマスのチップを海外から輸入している発電所や、県外からやってきた企業による発電所などは、地元の利益が少ない。
土地にあるものを地元企業が活用し、地域の中でお金を回していくことに大きな意義があります。
ただ、林業に携わる人が少なくて…。林業はきつい・危ないイメージを持たれがち。
でも、学生たちが林業の体験に山に行くと「イメージが変わった」と言うんですよ。
自然の中の仕事は大変ですが、心地よく豊かでもあると感じるようです。
−それって、就職先を考えるときにもプラスになりますよね!
「仕事」というと、会社に行って、週休二日で…という固定概念に偏りがち。
でもそれが「当たり前」なのか、自分自身が満たされる「豊かさ」はあるのか、立ち止まって視野を広げて考えてみることが必要だと思います。
−なるほど!「豊かさ」の見直しがこれからのキーワードになりそうです。
そうなんです。お金を儲けるばかりの経済発展で良いのか?
稼いで家や車を買えば豊かなのか?どこで、誰と、どんな生き方をしたいか?
見直すべき時代にきてるのではないでしょうか。
学生にも伝えていますが、自分にとっての豊かさを人生の中で大切にして欲しいです。
これまでは、自然、人のつながり、文化、歴史といったものは資源とされず、それらがたくさんあってもお金にならなければ「貧しい」とされていました。
でも、島根にはこれからの時代のカギになる「豊かさ」と「自分らしさ」がある!
−仕事や娯楽を求めて都会に出てしまう若者が多いですが…。
「島根は娯楽がないから学生がかわいそう」と言われることがあります。
でも、島根でしか得られない充実感だってある。魚を釣って捌いて料理したり、畑を耕して野菜を作ったり…。
それは誰かに与えられた娯楽の消費ではなく、自分が動いて得る経験。生きる力と知恵が身についていくはずです。
実は今、農業に関心がある学生が増えています。
大学で学ぶうちに、「豊かさを考えたら、食と農業は切り離せない」「食べ物がどうやって作られているか知りたい」「農業に関わっていると地域の人からいろいろ教えてもらえて楽しい」と感じ、価値観が変化するようです。
−素敵ですね!日常の中から「自分の思う豊かさ」を見つけてる…何だか楽しい!
暮らしの中で興味を持ったことを調べてみると良いです。
例えば、お子さんがいる人は食べ物の安全性や栄養価が気になりますよね。どんな材料が使われ、どこでどうやって作られているか、考えるところからスタートしてみましょう。
地元の醤油屋さんや味噌屋さんに行ってみたり、お米の産地がどこなのか調べてみたり、食品を手作りする会に参加してみたり…。
持続可能な社会を考えるとき、エネルギー問題は個人では関わりにくい。
食べ物はとっかかりにしやすいです。地域に目を向けることから始めると、面白い取り組みに出合え、人との繋がりができ、いろいろな価値観に触れられるでしょう。
−島根にも、その土地に根ざして豊かさを大切にしている人たちがいますか?
たくさんいますよ!
私が編集に関わっている『みんなで作る中国山地』という雑誌では、新しい豊かさの価値観をもちながら、中国山地で取り組みをしている人たちを紹介しています。
地元でバイオマス発電を始めた人、農場に太陽光発電システムを設置して農作物と電気を自給してる人など、多様な取り組みを知ってほしいです。
− SDGsにもつながる取り組みですね。 SDGsがぐっと身近に感じます。2030年の達成目標まであと9年ですね。
日本人に求められるのは「己の行動を改めよ」ということ。
国レベルでの大きな変化は難しいので、個人が変わっていくことがカギに。
奇しくもコロナ禍が暮らし方や地域でのあり方を考えるきっかけになっているはずです。
この後の時代がターニングポイントであり、最後のチャンスと考えてほしい。
リーマンショックの後は、経済を上げていくために環境負荷が増えました。
ポストコロナの時期は、社会がどんな方向に進むのか…。
−そのために、私たちにはどんな変化が必要ですか?できることはありますか?
経済や政策は消費者の選択によって動かされます。
EUは経済を環境投資で立て直す「グリーンリカバリー(緑の復興)」を掲げています。
日本がどう動いていくかは、私たち一人一人の考え方に委ねられています。
SDGsの掲げる「誰一人取り残さない」は、「誰もが参加する」という意味もあると思います。
価値観を見直し、さまざまな問題を「自分ごと」として考え、地域の一員として選択・行動することが必要です。
【今日からできるおすすめのエコ】
SDGsのそれぞれの項目を、身近なことに関連づけてもらいたいです。
例えば「貧困をなくそう」は、遠い国だけでなく日本でも解決すべき問題。「身近なところで困っている人がいるかもしれない」と考えてみましょう。
当たり前だと思っていたことを他の国や地域と比較し、暮らし方や働き方をより良い方に変えていくことも大切です。
*豊田先生とお話しした感想*
インタビューの中で何度も出てきた「豊かさ」という言葉が印象的でした。
どこでどんな暮らしをしていくことが自分にとっての「豊かさ」につながるのか、欲しいものが何でもすぐ手に入る便利な生活が本当に幸せなのか…。
しっかり考え、できることから始めたいですね!
(*写真撮影のため、特別にマスクを外していただいています*)
豊田先生が編集に関わる
「みんなでつくる中国山地」
知って・考え・「選ぶ消費」
エシカル消費(消費者庁HP)