カカオのふるさとを守り、皆の努力と魅力の中継地点に!La chocolaterie NANAIRO 西森さん(2)
-温暖化の影響でカカオが育たなくなるという話を聞きましたが、本当ですか?
近い将来、チョコレートがなくなってしまう…?
その噂はチョコレート業界でも耳にします。
カカオはデリケートな植物。赤道に近い〝カカオベルト〟と呼ばれる地域で育ちますが、暑ければ育つという単純な話ではありません。
気温が上昇すると病害虫の種類が変わるので、影響は少なくないでしょう。
チョコレート業界でも「なんとかしたい!」と声が上がっていて、ヨーロッパの大きなチョコレート専門店が農園の指導に行ったり、病害虫に強い品種を作ったりしています。
環境の変化はもちろん、紛争や後継者不足もカカオ栽培の危機を招いています。
以前、タンザニアの業者からカカオを購入しようとしたことがあったのですが、近隣で紛争が起こり港が封鎖されて輸送が大幅に遅れました。
-遠い国の出来事が、身近な食に影響しているんですね!世界のいろいろな問題を〝他人ごと〟ではなく〝自分ごと〟として考えるべきかも…。
そうですよね!しかも、単なる〝遠い国の出来事〟ではないんですよ
貴重な食べ物がなくなってしまう危機的な変化は、日本でも起こっています。
例えば、NANAIROのチョコレートに使っている黒糖もその一つです。
チョコレート作りに最適な砂糖を探す中で、沖縄の小浜島の黒糖に出会いました。
混ぜ物のない純黒糖で、私が今まで食べたものの中で最上級の味!
でも、沖縄でしか流通していない「幻の砂糖」なんです。
-そんなにおいしいならすぐ全国で売れそうなのに…
私が訪問したのは5年ほど前ですが、島のサトウキビ農家さんが共用している工場の機械が旧式で、シンプルな加工しかできない状況でした。
商品の品質に問題はなく、むしろ美味しさにつながっているように思いましたが、ブランディングや販路開拓などの面で難しいことが多いようでした。
さらに、農家さんは高齢者が多く後継者がいません。
今後も仕入れ続けて支援したいのですが、近い将来この黒糖は消滅するかもしれません。
-同じようなことが全国各地で起こっているかも。思っていたより、身近で深刻な問題のようですね。
だからこそ、作り手のこだわりを感じる食材をチョコレートに使い続けたいです。
NANAIROのチョコレートには必ず1つ農産物を加え、生産者を紹介しています。
2021年春夏コレクションで特におすすめなのは、隠岐郡海士町の「崎みかん」を使ったチョコレート。
廃れつつあったみかん栽培をIターンの方が復活させました。
みかんの濃い味がチョコと合って美味しい!
手摘みで収穫しノンワックスで納品してくれるので、安心して皮ごと使えます。
みかんが取れるなんて初耳!チョコレートを通じて、島根の食の再発見ができそうです。
人気のえごまフレーバーは、近所の農家さんの提案から生まれました。
「農薬を使っていないから安心して実ごと食べられるけど、無農薬の認定を取るには収穫量が少ない!誰も買ってくれない!」と持って来てくれたことがきっかけ。
無農薬などこだわりがある農家さんは、虫を手作業で駆除するなど本当に手間隙かけています。
その分価格が上がるのですが、それを知らない人が多い。
でも、高くても確実に価値とニーズはあるんです。
フェアトレードだけでなく、無農薬栽培などこだわりが込められた農業を未来へつなげていくため、人と作り手をつなげるよう活動ができればと思っています。
このお店を、見えない農家さんの苦労や魅力を発信できる中継地点にしたいです。
-生産者さんのマルシェイベントをサポートされていますよね。それも魅力の発信地になりそう!
市場に出せないものを持ち寄って販売してもらっています。
少し傷が入ったり、形が歪だったり、虫に食べられていたり、でも十分食べられるおいしいものばかり。
気にされる農家さんもいますが、たとえお客さんが家に持ち帰ってから虫が出てきてもそんなの弾けば良いし、全然気にならない人だって多いです。
美味しいものを破棄するなんて勿体ない。
一部のお客さんは農家さんと仲良くなって、農園に直接購入に行っているそうです。
-ファンがつくなんて素敵!最近「エシカル消費」という言葉をよく聞きますが、地元の農産物を買うのもエシカルですよね。
フェアトレード商品などの「エシカル消費」は、真面目な人ほど追求して「あれダメ、これもダメ…」と疲れてしまう傾向があります。私も経験があります(笑)
楽しいこと、気軽なところから始めるのも良いと思いますよ。
SDGsには「1つでもできることから始めよう」という考え方があります。これ、私の中に安心感をくれたんです。
全部できなくてもいい、できることから、というスローガンはすごくいい!
-他にも環境に配慮した取り組みも進めていると聞きました。
来店2回目のお客様から、保冷剤・保冷バッグのお持ち込みを推奨していて、ご希望でしたら簡易パッケージの商品もご購入いただけます。
ショッパーはプラスチック製のものを有料でお渡ししていますが、これから紙製に移行していく予定です。
最近はビニールに見える紙の包装材が開発されているので、価格が落ち着けば個包装に導入したいです。
また、紙箱を貼り箱から組み立て式に変更しました。
嵩張らないので輸送時のコストとゴミが削減できていて、箱の組み立ては出雲の福祉施設に依頼しています。
-先進的です!エシカルな消費活動を心がけたい人は増えていますから、お客さんもこれを知ったら喜びますね。これからのビジョンを教えてください。
農家さんに気軽に相談に来てもらえるシステムができないかな、と考えています。
「農産物を使ってほしい」「作っている野菜や果物をなんとかして活用したい」というお問い合わせも増えているので、なるべく意見を形にしたいです。
「フード・アクション・ニッポン」の活動に参加して郷土の食文化について発信したり、学校の先生向けにフェアトレードの講演会を行ったりもしています。
コロナ禍で休止していますが、カカオからチョコレートを作る授業を文化教室やイベントなどさまざまな場所で実施。いろいろな方法で食の奥深さを伝えていきたいです。
私、出雲に来てから食べる物の種類も調理法も増えたんですよ。
例えば多伎で有名なイチジクは、出雲で初めて食べたものの一つ。
とてもおいしいし、地元の方がコンポートなどいろいろな方法で楽しんでいることに驚きました。
出雲といえば出西生姜も広く知られていますし、出西窯のようにステキな焼き物もありますよね。
料理は器と合わせることでおいしさが増すもの。農産物だけでなく、多様な楽しみ方も伝えていければいいなと思っています。
次の世代に選択肢を提示したいという思いもあります。
今、両親が大阪から出雲に来て一緒に住んでいます。メインはこちらで、大阪の家も残して時々帰るスタイルの生活。
地方と都市は距離があると思われがちですが、実際やってみると行き来はそう難しくありません。
「都会に出ないと何もできない」と思い込まず、拠点を行き来しながら自由に生きる方法もある。
この豊かな出雲からさまざまな可能性を提示することができたら嬉しいです。
*西森さんおすすめのプチエコ*
チョコレートを加工する際に出るカカオの殻を畑の隅に撒いたら、雑草が勢いよく伸びたんです。
肥料として使われることもあるようで、希望があれば農家さんやお客様にお分けしています。
家庭菜園や園芸で試してみたい方にはお渡しするので、ご来店時にお声がけください。私たちもごみの削減になって嬉しいです!
*西森さんとお話した感想*
西森さんがチョコレートについて語る姿勢はとても情熱的。島根の生産者とも、遠く離れた海外の生産者とも、しっかり手を取り合っていると感じました。毎日漫然と買い物をしているので、暮らしの背景にあるものを見直さねば!と背筋が伸びます。
取材後、NANAIROさんのチョコレートいただきました。繊細な香りと複雑なコクが口の中でとろけて、食べた後もずっと幸せな気持ちに…。この1枚は、たくさんの人の思いをのせてここに届いている。そう考えると、より美味しさが深まるようでした。
*取材させていただいたのは、斐川町の田が輝く夏。写真撮影の際にのみマスクを外しています。季節により商品も変わりますのでHPにてご確認ください*
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