大地の恵みが花開く、豊かな島根でできること 島根大学 松本一郎教授

2020.03.31

 

 

 

科や環境教育に携わる、島根大学大学院 教育学研究科の教授・松本一郎先生。
 

地質学や環境的な側面から見ると、島根県は驚くほど豊かな土地だそうです。
 

その秘密と、未来に向けて島根が担うことについてお聞きしました。

 

 

真っ黒な石!先生、これはなんですか?

 

ただの石に見えますよね?
 

実は、この石は『コンドライト』という種類の隕石で、46億歳なんです!
簡単に言うと、この石が集まって太陽系の星々が生まれました。
つまり、「星のもと」ですね!
 

地球もコンドライトから誕生しました。
今、あの「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに採りに行っているのもこの種類の石ということになります。

 

 

 星のもとだなんて!すごい!研究室にはほかにもいろんな石がありますね。

先生は大学で理科、環境、地球・宇宙、岩石鉱物鉱床学などを教えていらっしゃいますが、子どもの頃から宇宙や岩石に興味があったんですか?

 



生まれは長崎県で、小学校から高校まで大阪で過ごしました。
 

実は勉強が苦手で、高校ではもっぱら地学の先生と山を歩き回っていたんですよ(笑)。
ハンマーで岩石を叩いて調べてみたり、大阪平野の街中を歩いて、高低差がある理由を地質的に調べたり…。
 

大地の成り立ちが美しい風景や地下資源を生み出し、人間がその恩恵で生活していることがおもしろくて!
そんなふうに過ごしていたら、地学の先生に「歩いて地球のことを調べるなら、島根県に良い研究環境が整っている」と教えられ、島根大学に進学しました。


 

卒業後、関東で仕事をしていた時期もありましたが、また島根大学に戻って今にいたります。

島根はとても魅力的な環境なので離れられません。

 

 

 島根のどんなところに惹かれますか?


 自然の豊かさは日本でトップクラスです!
 

さらに、島根県の地形は美しいだけでなく成り立ちが興味深く、隠岐諸島はユネスコの世界ジオパーク、島根半島・宍道湖・中海一帯は日本ジオパークに認定されています。
 

興味が尽きないんですよ!

 



大昔、島根半島は中国山地から続く大地の一部になったり、また一つの島になったりなど、変動を繰り返していました。
 

それが今のような宍道湖と中海が形成される一つのきっかっけをつくったのは、島根半島の山々と中国山地から続く大地との間に、いくつかの火山活動があったからだと考えます。
 

その火山活動は、私たちの馴染みのある茶臼山(ちゃうすやま)から嫁ヶ島(よめがしま)にかけての地形(玄武岩:約1000万年前)であり、もう一つは嵩山(だけさん)から和久羅山(わくらやま)にかけての地形(デイサイト:約400万年前*)で、宍道湖と中海が生まれる基盤をつくりました。

 

*)最近では80万年程度であるという研究成果も報告されています。

 



隠岐諸島は太平洋プレートとフィリピン海プレートが微妙に関わり合う、つまり2つのプレートの縁結びの結果誕生した島とも考えられます。
 

科学的真実とは少し異なるかもしれませんが、そのように考えると夢があると思います。

 

 



大地の過去の営みが、素晴らしい風景と文化を生み出し、それらが日本の歴史とも強く関わっている。
そのようなジオパークとはつまり、その土地が日本と世界の〝宝〟だということですね。
 

こんなにおもしろい場所は他にありません。

 

 

 文化や歴史も、大地の成り立ちと関係があるんですか?



まず「たたら製鉄」ですが、中国山地に分布する御影石(みかげいし:花崗岩)が風雨や川に浸食されることで流れ出た砂鉄によって鉄の産業・文化が生まれました。
 

出雲地方は鉄の重要な産地として、日本の歴史に大きく影響したと言えるでしょう。
 

世界遺産となった石見銀山の銀は、シルクロードを経由してヨーロッパまで届けられました。

 

 

 
また「石州瓦(せきしゅうがわら)」は、江津から温泉津(ゆのつ)にかけて分布するおよそ200万年前の都野津層(つのづそう)という地層に含まれる土(泥岩層)が原料です。
 

松江城の石垣は主に和久羅山の岩石が使われています。

 

 

 

そして、玉造の焼き物「布志名焼(ふじなやき)」は宍道湖南岸の布志名層の土です。
 

やわらかく加工しやすい「来待石(きまちいし)」は凝灰質砂岩です。
火山活動や水の浸食などで、多様な大地の恵みがもたらされているんですよ!

 

 

 大地は見慣れた風景や生活の中にあるものの〝母〟なんですね!とても壮大な物語なのに、親しみを感じます。


そうですね。
島根県の大地からはさまざまな文化が生まれ、日本と世界の歴史に影響を及ぼしています。
 

太古の昔から続いてきたこの素晴らしい環境を持続可能なものとし、大切に守り未来へ伝えていかなければいけないと思います。
 

でも、島根県にずっと住んでいる人はそれが当たり前の風景なので意外と気付かないんですよね…。
魅力を知って、もっと盛り上げることが大切だと思っています。

 

 

先生は子ども向けの教室もされていますね。どんなことを伝えていますか?

 

 

幼稚園などでは、一緒に泥だんごを作って自然の成り立ちを伝えています。

空には太陽があり、山があり、大地が雨で削られ、流れてきた土で台地や平野ができる。
その下にはモグラさんやミミズさんが住んでいて…と、土がここにある理由や意味を、絵や歌で伝えます。

 

 

小学校で話すのは、大地の成り立ちや水の流れなどです。
子どもたちと自然の中でフィールドワークもしていますよ。
 

例えば、川を河口からさかのぼってみる調査では、河口で採取した砂を上流域の岩と照らし合わせてみると、岩が削られて流れてきた砂であることが証明できるんですね。
まるで探偵みたいでしょう?こんな学びができるのは島根だからこそです!
 

また、美しい風景や文化といった「恵み」と、地震や台風などの「禍(わざわい)」という、自然の二面性を伝えるようにしています。
人間はその両方と付き合っていかなければいけません。
 

そして一方で、「今ある環境は努力しないと維持できない」ということも考えてもらいます。

 

 

 

 

 

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