樹木の名前の調べ方・入門編

樹木の名前の調べ方・入門編

はじめに

歩いていると「この木は何だろう?」と思うことがあります。

コナラ、クスノキ、シイの木、と木の名前はいろいろ知っているけれど、どの名前がどの木なのかはよくわかりません。 図鑑を買ってきてもその樹木がどこに載っているのかがよくわからないのが実情です。 樹木の名前を調べるためにもある程度の予備知識が必要になってくるのです。

樹木の名前を調べるには

植物は花のかたちやつくりによって仲間わけをします。 バラ科、ブナ科などの科ごとの分類は花の形態によって分けられています。 しかし、植物が花を咲かせている時期はほんの短い間です。 いつでも花を見られるわけではありません。 他にも、樹木の全体のかたち、幹の模様、葉のかたち、生えている地形や環境などから、種類を知ることができます。

なかでも葉っぱで調べる方法は、常緑樹なら1年中、落葉樹でも冬以外の季節なら、いつでも樹木の名前を調べることができます。

葉のどこを見るの?

葉を見るといってもどれも同じような葉に見えます。

しかし、少しだけよく見ていくと、同じように見えていた葉がひとつひとつ個性を持ったものだということがわかってきます。では葉のどこを見れば樹木の名前を調べる手がかりになるのでしょうか? 以下にその手がかりを並べてみました。

  1. 単葉か複葉か?
  2. 葉のつきかたどうか? 互生?対生?
  3. 葉は裂けているか?裂けていないか?
  4. 葉のふちはどうか?
  5. 常緑か落葉か?
  6. 葉脈はどうか?

さあ、みなさん一緒に樹木の名前の調べ方を見ていきましょう。

その1 葉の部分の名前

1枚の葉は、葉身(ようしん)、葉柄(ようへい)、托葉(たくよう)から構成されています。

葉の本体ともいうべき平たい部分を【葉身】、葉身と茎との間に棒状の部分を【葉柄】、葉柄の付け根にある一対の小さな葉のようなものを【托葉】といいます。

葉柄や托葉は、植物の種類によって、あったりなかったりするので種類を見分ける 手がかりになります。

その2 葉のつき方

その2 葉のつき方

【葉の単葉・複葉】

単葉

「複葉」の対になる言葉。 切れ込みは深くても複葉のように分裂していないものをいいます。

複葉

1枚の葉であっても複数の葉のように分裂している葉を「複葉」といいます。

枝へのつき方

その3 葉の形

葉のかたちは切れ込みなどを無視して、全体の大ざっぱな形を見ます。 さらに同じひとつの木でもいろいろな形の変化があるので、標準的な葉を選んで見ます。 葉のかたちは、多くの例がありますが、いくつか代表的なものを以下に示します。

その4 葉のさけ方

葉のさけ方は切れ込みの深さによって「浅裂」「中裂」「深裂」などと呼ばれます。 ただ、どこからどこまでが浅裂で、どこからが中裂というようなはっきりした境目はありません。

葉の大きさは実寸大ではありません。

その5 葉のふち

葉のふちのギザギザを鋸歯(きょし)といいます。 ギザギザのないものを「全縁」、ギザギザのひとつひとつにさらにギザギザのあるものを「重鋸歯」と呼びます。

その6 常緑・落葉

1年中緑色の葉をつけることを「常緑」といい、常緑の葉をもつ木を「常緑樹」といいます。

秋に葉が枯れ落ちて冬に緑の葉をつけないものを「落葉」といい、落葉の葉をもつ木を「落葉樹」といいます。

常緑の葉は光沢があり、厚く濃い緑色のものが多く、落葉の葉は薄く明るい緑色になります。

その7 葉脈

葉の中を通っている水分や養分の通り道を葉脈(ようみゃく)といいます。

葉の表面に見える細かいすじになってあらわれます。  葉のかたちや鋸歯とともにその葉を特徴づけますが、常緑樹ではほとんど葉脈の見えないものもあります。

その8 托葉

葉柄の付け根にある一対の小さい葉のように見えるものを托葉(たくよう)といいます。 托葉の有無、托葉の形やついている場所は植物の仲間を見分けるのに役にたちます。

また托葉にはすぐに落ちてしまうものがあるので、見たときに托葉自体はなくても托葉の跡が残っている場合があります。 モクレンやクワの仲間では托葉の落ちた跡が茎をぐるりと円形状(鉢巻状)についていて樹の名前を調べる手がかりになります。

その9 葉の変異について

樹木は生きものですので、育った環境や樹齢などによって、個体差や変異が出てきます。 同じ1本の木でも葉のかたちには変異があります。 葉を見るときは全体を見て標準的な葉を見るようにします。 樹木の名前の調べ方・入門編の最後に、代表的な変異の例をあげておきます。

  • 春の若い葉、夏、秋の成熟した葉では色が違ってきます。
  • 若い木では裂ける葉をつけていますが、年老いてくると裂けない葉が増えてきます。
  • 虫が寄生したり病気になることによって、葉の色やかたちが違ってきます。
  • 日なたの葉、日かげの葉では大きさや色が違ってきます。
  • 潮風が当たる地域や雪の多い地域など、育つ環境で葉の色やかたちが違ってきます。
  • ふつうは鋸歯のないものが、ときには鋸歯が出現するときがあります。

これからもっと知りたい人のために

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著者: 林将之
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植物用語がわかる本

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著者: 石戸忠
出版社: 研成社
定価: 1,121円(税込)

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著者: 清水健美
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編者: 佐竹義輔他
出版社: 平凡社
定価: 18,900円(税込)

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編者: 北村四郎 村田源
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豆知識 葉ってなんだろう?

維管束のある植物では、栄養をつくる機能をもち、茎についている器官を葉と呼びます。 私たちが一般に葉と認識している部分は、このような栄養をつくる機能をもった「普通葉」と呼ばれるものです。

葉(普通葉)には3つの役割があります。 1つは光合成、2つめは呼吸、3つめは蒸散です。 光合成によって植物は必要なエネルギーをつくりだしています。 光合成を行うために太陽の光が少しでも多く当たるように、それぞれの植物はそれぞれの葉のかたちにあった枝ぶりをしています。

葉は光合成のために二酸化炭素を吸収するだけではなく、呼吸のために酸素を吸収して、二酸化炭素を放出しています。 昼間は光合成の方が盛んなので、酸素を放出しているイメージのほうが強いのかもしれません。 葉の裏面の気孔は水蒸気を発散させる蒸散という仕事をして、植物体の水の移動をうながしています。

また葉にはその他にも役割に応じて変化していった例があります。 ヤマボウシの白い花びらに見える部分は実は花ではなく、葉が変化したものです。 私たちが食べているタマネギは、栄養を貯えた葉の変化したものが、短い茎を取り囲んだものです。

豆知識 茎や枝と葉柄のちがい

茎と葉柄を区別する手がかりとして、葉柄のつけ根にある小さな「托葉」という葉があります。 托葉があればそから先が葉であり、葉柄であることがわかります。 木の場合は芽が葉のわきにつくことが多いので芽のついている場所から先が葉になります。

また茎と葉柄とは形も違います。茎には表と裏の区別はありませんが、葉に表裏があるように葉柄にも表と裏があります。 片側にくぼみがある場合は葉柄です。

対生でついている単葉に見えても、実は複葉で、枝のように見えるのは実は葉柄、葉柄の延長である葉軸ということがあります。

豆知識 常緑でも葉は落ちる!?

1年中緑の葉をつけてはいても、同じ葉がずっとついているわけではありません。 常緑樹でも古い葉は枯れて落ち、新しい葉と交代します。

春になってシイの木を見ると葉が少しくすんで茶色味がかっているのがわかります。 常緑樹は春から初夏にかけて葉を交代させているのです。

参考図書

週刊 日本の樹木 学習研究社
日本野生植物館 小学館
大自然のふしぎ 植物の生態図鑑 学習研究社
日本の野生植物 本木Ⅰ 平凡社
日本の野生植物 本木Ⅱ 平凡社
原寸イラストよる落葉図鑑 文一総合出版社
検索入門 樹木1 保育社
検索入門 樹木2 保育社
目で見る植物用語集 研成社
NHK趣味悠々 草花ウオッチング 日本放送出版協会
植物の名前を調べる 国立科学博物館